俺の卒業試験は篭城中の城から密書を預かって来ること、だった。
卒業試験の割には簡単だと思うだろう。
が、城の周りには敵軍が固まっていて、篭城していて警備が厳しい城の連中にも一部以外バレずに内密に。つまりは誰にもバレずに行ってこい、という実は超難関な課題だ。
やむを得ない場合以外は人死にも出さないでくれ、というのも条件にあった。戦しておいてなに言ってるんだ、と思うものの、俺はなんとなく好感を持った。
こういう矛盾は嫌いじゃない。
変装に次ぐ変装。城に入ってからは隠密行動。一つの任務にこんなに色々な種類の術を使ったのは初めてだった。一年から六年まで学年総ざらいの復習、という感じ。頭の切り替えが多々必要で、冷静に、と勤めなければ軽い混乱を起こしてしまいそうになった。
そしてとある部屋の屋根裏から、音を立てずに俺は部屋の中へと降り立った。
中年の女がいた。俺の母親より少し若いくらいだろうか。突然現れた俺に驚いたようだが、「忍術学園から」と伝えると途端に緊張を解いた。
「これを」
差し出された密書を懐に入れる。一礼をして部屋から去ろうとすると、細い腕が俺の腕をとった。
「?」
囁きともとれる小さな声。
「気をつけて、無事に…」
真剣な目が俺を捉える。目が仄かにあの人を思わせて俺は少し動揺した。なにを、と問おうとする前に襖の向こうから声がかかる。
「たきやさま?」
俺は瞬時に動いて天井に飛び乗った。はっと我に返って声に答える彼女がそっと目配せをする。行け、と言っているようだった。
今の一件が気になりつつも、俺はその場から立ち去った。
その後、任務通りの城に密書を届けると、どう働いたのか知らないが戦の決着が着いた。長い戦になりそうだとみられていただけに周りからは驚きの目を向けられていた。無条件の降伏だったのか。条件付きの和平だったのか。
彼女が犠牲になったりしたんだろうか。
俺はあの出来事がかなり気になっていた。
実はあの後こっそりあの女性について調べたが、結局素性はわからないまま。奥方はどこかの高貴な家の侍女だったらしいが、これも噂の域を出ない。
わからないままなりに、俺は一つの推測を立ててみた。
名前も面影もなんとなく似ていたというだけでなんの証拠もないけど。
なんとなく、彼女が滝夜叉丸に繋がりのある人で、同じ年代の忍術学園の生徒である俺に滝夜叉丸を重ね合わせた、とかそんなことを推測してみた。というかだったらいいなと希望。
家に縛られ続けた彼が、たった一人だけとしても家族に愛されていたらいいと。
けど、俺達の仲を知っていた学園側が俺にそんな任務をさせるかね?どうだろう。可能性は零ではない。あの食えない学園長の笑い声を思い出して俺はくすりと笑った。
我ながら都合のよいことだと思いながら、俺はあの不思議な出来事にそうつじつまを合わせた。
[9回]
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