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07 . October
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13 . April
井桁模様の制服に別れをつげ、真新しい青の制服に身を通す。


学園で過ごして一年たった、進級、という感慨深さはなかった。
後に伝説を作る、かの有名な一年は組のように進級を危ぶまれるほどの成績ではなかったし、一年が習うことなんてよほどの体験をしない限り危険なことはない。
そんな風に思っていたわけだから、忍術学園で迎えた二度目の春は俺にとって日常の延長という感覚でしかなかった。
そして、滝夜叉丸との関係は相も変わらず「妙に気の合わない先輩後輩」のままだった。さすがに二年も付き合えばあの人の自信過剰の裏には相応の努力があることぐらいわかってきてはいたけれども。気に食わない奴、ずっとそう思っていた。裏を返せば、ずっとそう気になっていたのかもしれない。


さて、変わらない学園生活が、ちょいとばかし変わったのは、後輩の存在だ。
五年になって暴君にますます磨きをかけた身勝手大王七松小平太は、昨年同様の手口で新たな子羊を連れて来た。
時友四郎兵衛。俺の初めての後輩だ。
ふわふわの髪にきょとんとしたような顔。ひよこの様な印象で、正直なことを言うと最初に会った時コイツ半ばで潰れるなと思った。体育委員会のスパルタは他の比ではない。きっと他の委員も同じ様に感じたと思う。
だが、四郎兵衛ーシロは外見に似合わず忍耐力があり、そして負けず嫌いだった。
はふはふ言いながらもしっかりとマラソンに付いて来る。しっかりと前を見据えて。弱音や悲鳴は吐かない。ただ黙々とこなす。
初めて自分の足で完走出来たときのほっとした笑顔。
可愛い後輩だと思った。初めての後輩がいい奴で良かったと。


シロが委員会に入って、数ヶ月後のことだ。
滝夜叉丸が郊外実習で委員会を休む、ということがあった。
俺は久々の縄なしの開放感に浸りながら走り、そして当たり前に迷った。一年前と違うのは、俺の背中をみて走っていたシロを道連れにしてしまったことだ。
「またいなくなってらぁ」
しょうがねえなと頭を掻く俺に、シロが言う。
「僕らが迷ったんじゃないんですか?」
「まさか。迷子じゃあるまいし」
「……」
もちろんまさかの迷子だったわけだが、シロは黙った。後にわかることだがコイツは要領が悪いように見えて、実はいい。聞いた話では大家族の末っ子に育ったため、物事を静観してより良い方を判断するという行動が身に付いたらしい。つまるところ、余計なことは言わないのだ。
「とりあえず待ってたら先輩達が探しに来てくれるんじゃないでしょうか?」
「よしじゃあもうちょっと見晴らしのいいところ行くか」
と、草むらに一歩踏み出した時、それは現れた。
熊だった。
「……!」
猛烈な一撃を避けられたのは、奇跡に近い。冬眠明けの熊だ。気がたっていたのか腹が減っていたのかどうだかしらないが、そいつはのっしと一歩踏み出すと、目の前の人間の子どもにもう一撃を食らわせようと動く。
一撃目は奇跡だったが、その後の身の起こしととっさの判断はやはり学園で学んだものが強かった。固まったシロを引っ張って二撃目を避ける。
委員会中であいにくと苦内しか持っていない。そう大きくない熊だとしても、十一の子どもには充分脅威だ。
恐怖に手が震えた。呼吸が浅くなる。一目散に駆け出したいけど、ダメだ。シロがいる。
「つぎやせんぱい…」
後ろから不安げな声が聞こえた。泣くでもなく、混乱するでもなく、指示を待つ声。守るべきものが見えて、俺の頭がすこしまともに戻る。
息を一つ吐いた。
「シロ、静かに走って逃げろ。そんで出来れば先輩達を呼んでこい」
「……はい」
迷った様な沈黙のあと、熊を刺激しない様にそろりとシロが走り去った。留まっても役に立たないと判断したらしい。シロはやはり素晴らしい後輩だと思った。

迫ってくる熊から少しずつ間合いをとる、倒した所で益はない。ただ逃げることだけを考えて、慎重にかわす。相手は豪腕だが左門ほどの素早さはなく、作兵衛ほど意地の悪い攻撃を仕掛けて来ない。演習と同じだが演習よりも難しくはない。そして逃げ仰せれば勝たなくても良いのだ。徐々に冷静になっていく自分がわかった。
シロが逃げ果せたであろう時間まで粘り、充分に間合いをとったところで、一息に全力で走り去った。間を置いたせいか、そこまで追う相手ではないと判断したのか、熊もそれ以上追っては来ない。
走って走って、安全を確認した木の上でようやくほっと息をつく。強張った手からくないを毟りとって懐に納めた。
生き延びたという安心感がどっと体に湧いた。戦いに勝つことではなく、生き延びることこそ勝利。座学で学んだ意味がわかった気がした。熊相手に高々、と思うことなかれ。まだ十一の子どもだったのだ。
苦内を握っていた右手が震えていたとしても、仕方がないだろう?

そしてその途端に現れたあの人に、思わず触れてしまったことも。
「三之助?」
滝夜叉丸の右手をしっかと握った俺の手を不思議そうに眺めて彼が言った。俺はと言えば握った手のひらからじんわり伝わる体温に不覚にも涙腺が緩みかけていて。
俺の手が震えていることに気付いたのだろうか。最初は戸惑い気味だった滝夜叉丸は、やれやれといったように一息つき、そして俺の肩を抱いた。
「シロは無事だ。お疲れさん」
包まれる温度と匂いと、空気に。

俺は恋をした。



まあその後に長時間に及ぶ説教と、そして「私ならば云々」なんていつものご自慢に思わず手(実際出たのは足だった)が出たというのは、また別の話だ。

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