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07 . October
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21 . October
保健室の主だなんて、昔も言われた言葉を今も言われるなんて思わなかった。
でも、ほっとけはしないでしょう?
これは死んでも治らない僕の性分なんだろうね。


>side 善法寺伊作

富松が保健室に担ぎ込まれたのは日も随分暮れてからだった。
ランニング中に別れて、その後中々帰ってこない富松を心配して、サッカー部の顧問が探しにいった所、教えた小川からほどない荒れた小屋の前で倒れていたらしい。辺りの様子を見るに、嘔吐もしていたらしい。吐瀉物が喉に詰まらなかったのは幸いだった。
だけど、小屋の場所を聞いて嫌な予感がした。あれは昔に用具委員会が倉庫として使っていた場所だ。
熱を計ると39度を超えていた。見覚えのある症状だ。嘔吐といい、高熱といい、これは過去を思い出したのかもしれない。
この学園に来てから、そして保健委員になってから六年。過去を思い出す生徒を幾人も看てきた。富松の症状はそれに該当する。案の定、苦しげに息を吐く喉を覗き込んでもリンパ腺は腫れていなかった。風邪ではないことを確認すると、ますます記憶を取り戻した可能性が強まる。
保健医の新野先生と話して、念のため病院へと送り出す。
自分は先に寮へ帰って、寮の病室(そんな大したものじゃない。風邪とかインフルエンザの感染する病気にかかった生徒用の寮の空き部屋だ。)の準備をしよう。今夜はきっと長丁場になるだろうから。
記憶を取り戻した生徒は基本的に混乱していることが多い。そんな彼等の言葉に出来るだけ答えてやることだけが、記憶を持った僕が出来ることだろう。
そう、思ってる。

寮の自室に戻ると、同室の留さんが机に向かっていた。
「おかえり。」
「ただいま、留さん。僕今日また詰めるから。」
「誰か風邪でも引いたか。」
富松は留さんの後輩だ。昔も今も、とても可愛がっている。ならば伝えるべきだろう。
「富松が思い出したらしい。」
留さんの、ノートの上を走る手が止まった。
「確かか?」
「まだはっきりとは。部活の最中に倒れてた所を発見されたんだ。今、病院に行ってるけど、僕と新野先生の見解は恐らく思い出したんだろう、だ。そうだ、僕より顔見知りの留さんが付いてた方が富松は安心するかな?だったら留さんも一緒に…」
「伊作、」
後輩を可愛がっている留さんなら来ると思ったから誘った。その言葉は彼自身に遮られたけれど。
「悪い。これ、今日中に終わらせたいんだ。作兵衛のとこには明日にでも行くわ。」
「……そう。」
彼らしくないなと、単純にそう思った。
「ん、じゃあ僕そろそろ行くよ。」
「ああ。」
留さんは机から顔を上げない。ただ、自分が扉を開ける間際もう一度呼び止められた。
「伊作」
「なんだい?」
「小平太のとこの次屋、あいつ、「持って」て、作兵衛が思い出すかもしれないって、最初に気付いた奴だから。知らせてやってくれ。」
「……ん、判った。」
彼らしい気配りのある言葉だ。その分、彼自身が行かないことも机から顔を上げないことも随分と不自然に感じた。
「じゃあ留さんも知ってたんだ?富松が思い出しそうだってこと。」
「…ああ。」
「でも富松のとこには行きたくないんだね?」
「…ああ。」
歯切れの悪い、らしくない返事。判るのは留さんが富松の過去の記憶を思い出すことに対して何かしらを思っているという事。…気にならないと言ったら嘘だけど。
「…もし、富松が思い出さなかったとしたら、ちゃんと今まで通りに接してあげるんだよ。」
「……」
それだけ言って、部屋を出た。出る間際に聞こえた「すまん」の声は聞かなかったことにする。
それは僕じゃなく富松に言うべき言葉なんだろう。


富松の寮部屋へ行くと、風邪、ということで話が伝わってるらしかった。
「というわけだから、とりあえずの着替えがほしいんだ。熱が高いから、お見舞いは明日、ね。」
「了解です。作兵衛の奴、熱なんて珍しいのな。あいつ風邪だってほとんどひかないんですよ。」
「ここのところ急に寒くなったり暑くなったりしたからね。神崎もお腹出して寝たりしないように。文次郎に怒られるよ。」
「うへえ、想像尽きます。」
顔を顰める神崎を撫でる。後ろで神妙な顔をしているのは、次屋だ。
「…作兵衛は、大丈夫なんですか?」
何かがあったと察したのだろう。心配そうに彼は言った。
大丈夫だよ、なんて無責任には言えないけど。笑顔で自分に出来るだけを答える。
「うん、たぶん。でも、僕が付いてるから。ああいう症状はよく看てきたからね。」
この言葉で、伝わることは伝わったらしい。安堵の表情を滲ませた。
「そうですよね、善法寺先輩は、ずっと、保健委員でしたもんね。」
「そうそう。」
「作兵衛をお願いします。俺達も明日、顔出しに行きますから。」
「作兵衛にまた明日なって言っといて下さい!」
まったく、いい友達を持ったもんだ。


富松が病院から帰ってきたのはそれから間もなくで、やはり現状では原因不明だという。血液検査の結果待ちとのことだけれども、果たしてそれに意味があるのかどうか。
病院では朦朧でもあった意識が、病院からの帰り道でまた眠り込んでしまったらしい。
新野先生が報告のため校舎へ帰られ、富松を着替えさせてベッドに寝かせる。凍り枕か額に乗せた冷えたタオルか。熱っぽかったの顔色が少し良くなった。
そしてふわり、閉じられた瞼が開く。
「起こしてしまった?まだ寝てていいよ。それとも何か食べるかい?」
「ぜんぽうじ、せんぱい?」
「うん、そうだよ。ここは寮。」
横を向いたことでずり落ちた額のタオルを元に戻す。
富松の視点の合わない瞳が僕を捕らえる。
「まだ眠いなら寝てなさい。」
「…寝ると、いやな事をおもいだすんです。」
泣きそうな顔。……ああ、思い出してしまった。多分、全てを。ならば、僕に出来ることは一つだけだ。
「…うん、そうか。」
汗に濡れた頭を撫でて、布団の中の手を握った。
「安心して、僕も忍術学園のことは覚えてる。僕だけじゃなくて、他にも覚えてる人はいっぱいいるから。富松だけじゃないよ。」
過去を思い出すという事は、一度自分が死んだ事を思い出すという事。そういう時、独りではないということがどれだけ救われるのか。この事を教えてくれたのはもう卒業した先輩方だ。僕は産まれたときから持っていた人間だけど、それでもその気持ちはわかる。
「先輩も覚えてるの?」
「そうだよ。」
驚いて目を見張る富松に笑いかける。
「富松のあの頃のことも覚えてるよ。いっつも迷子二人を探して忙しそうだった。」
「…あの時は二人もいたから。」
富松の目がくすぐったそうに細められた。
「次屋はもう治ったらしいね。」
「ああ、あの、平先輩のときに治ったんです。治すの、大変だった…」
「僕が卒業した後の話だ。」
「左門も一緒に治ったんですよ、あいつ、忘れやがって。」
「神崎らしいねぇ。」
「……先輩。三之助が今治ってるってことは、あいつ覚えてんのかな?」
心配そうな顔。同じ顔をさっきも二つ見た。
「うん、覚えてるって。だから富松が思い出すかもって言ったとき、心配してたって。」
「そうなんだ…」
「明日会いに来るって言ってたよ。神崎も、また明日、だって。」
富松はいい友達を持ったね。そう言えば、彼は泣きそうに笑った。
「昔っからの親友なんです。」
「うん。」
「…先輩が、覚えてる人で良かった。」
ぽつり、富松が言う。うん、そう思ってくれればいい。独りきりで我慢をする、というのは気持ちにすごく負担が掛かる事だから。
「何でも相談にのるからね。次屋だってきっとそう思ってる。神崎だって覚えてたらきっとそう思うだろう。」
「ありがとうございます。」
富松の見せる笑顔に安心する。落ち着いてきたんだろう。
「でも今はもう眠った方がいい。思い出すということは体力を使うからね。」
「はい。」
素直に頷く彼の頭を撫でる。片手は握りあったまま。富松は何も言わないからこのままで。この温もりが夢の中でも今現在と繋がっているという印になればいい。
「富松、何を思い出そうと何を感じようと、君が思い出していることは過去の、今の君が産まれる前のことだ。今現在を生きてる君が負い目に感じることは何一つないんだからね。」
「…はい」
しばらく、間があった。もう寝たのだろうか。様子を伺うと、小さな声で富松が話す。眠る間際のとても小さな声だった。
「食満先輩もおぼえてるのかな?」
もう寝たものと思ってたものだから。反応が遅れた。
「富松?」
「おぼえてるなら伝えないと…おれ、せんぱいのこともう恨んだりしてないって……」
恨む。物騒な言葉だ。
「富松、何を…」
さらに問うと、すう、と寝息が聞こえた。眠りに入ったらしい。
何かを思い出したんだろう。
留さんのおかしな態度を思い出す。二人とも、きっと同じことを思い出している。
何があったんだろう。卒業前とはちょっと考えにくい。なんたって留さんとは六年同室だったのだ。何があったら流石に気づく。なら、その後か。
あの時代、一度別れたら再会できる可能性は限りなく低かった。六年一緒に生活していた留さんとも、卒業後は一度も会っていない。そして生まれ変わって再会した後も、その後の事を話したりはしなかった。だから僕は彼がその後辿った軌跡を知らない。
今更、ということもあるけれど。それよりも、やはり良い思い出は少ないのだ。プロの忍者として生きた日々は。お互い触れられたくない方が多い。あまり話したくないことが多い。
今回のこともそうなのかな。どうだろう。
でもどんな事であっても、手を貸したくなるんだろうな。お節介だろうとなんだろうと。
だってずっと一緒に過ごして来た友達だもの。
留さん、僕はもう一度君に出会えて本当に嬉しかったんだから。




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