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07 . October
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21 . April
手は尽くされた後だった。



なにが起きたのか詳しくは聞いていない。ただ彼は試験に向かい、予想を遥かに超える戦場を目の当たりにし、そして傷付いた。功績もいくらか残したらしい。生きて学園に辿り着けたのは味方の城の忍びが担ぎ込んでくれたからだったが、帰って来たこと事態がすでに奇跡だったらしい。いつ死んでもおかしくない身体で、彼は必死で帰ろうとしたのだという。
学園到着後、保険委員や新野先生がなんとか彼の命を繋ぎ止めようとしたけれど、もう既に手遅れだったそうだ。
馬鹿な俺が迷子なんかになってる間に彼は死を迎えることを決意していて、ようやく俺が彼の元にたどり着いた頃には、すでに滝夜叉丸の命はこの世からこぼれ落ちようとしていた。

二人きりの夕暮れの医務室で俺らはその時を迎えようとしていた。
俺はあの人の手を取って縋ってただただ泣いていて、彼は困ったように笑っていた。
最後は安らかに、と鎮痛剤を大量に服用されたらしい。痛みはないらしいが、かわりに常にぼんやりとした口調だった。
「さんのすけ、泣くな……こまったな」
ようようと上げた手で、するりと彼の手が俺の頬を撫でる。恐ろしいほど冷たく、俺はその手を温めようと両手で覆った。
彼が話す度にひゅうひゅうと空気が漏れ、一緒に彼の命までも漏れゆきそうで怖かった。実際そうだったのかもしれない。
「わたしはね、」
息が漏れるので話し辛いらしい、覚束ない口調で彼は話した。
「常に、一番をめざして、きた。それが目標で、生きる意味、だったからな。」
家でそう教えられてきた、と語る。彼が皇族にも繋がる家の出だと言うことは聞いていた。家族が、家柄が彼をずっと縛っていたということも。
焦点の合わない目が、俺に向かった。
「わたしは、家の目がこわかった。でも、さんのすけ」
「お前が、わたしを好いてくれた。わたしは、愛されてるとはじめて感じることができた」
さんのすけ、細い声がもう一度俺を呼ぶ。俺は彼の手を強く握った。
「私は、なにをされても、なにを言われても、どんな目にさらされようとも、あの家が私を見放そうとも、もうそんなことは全然辛くない。…いまこの瞬間にわたしが——死のう、とも、かまわない。」
彼はことさら優しい声で自らの死を肯定した。泣きじゃくる俺を宥めるように微笑む。
「だって、さんのすけ、
この世でいちばんたいせつなお前の、この世でいちばんたいせつな人になれた私は、この世でいちばん、幸せだ」
ゆっくりと、一言一言噛み締めるように言って、彼は笑った。
「おまえのいちばんになれる以上の幸いは、わたしにはかんがえられない」
「俺、だって、、たき……っっ」
俺もあんたと想い合える以上の幸せはないと伝えたかった。声が詰まって言葉が出ない。滝夜叉丸の姿が涙で滲むのが勿体なくて、俺はぐいと袖で涙を拭う。彼の手を握って大きく頷いた。
「俺も、だ」
ようやくそれだけを言うと、彼はまた微笑んだ。
弱々しい笑み。たったこれだけの会話がまたこの人の命を縮める。
もっと近くで抱き合いたいと滝夜叉丸が言って、俺は彼の身体を膝に乗せ抱き寄せた。
ぐったりとし、冷たい身体。恐ろしいと思った。彼が死ぬのが恐ろしい。悲しい。
二人で寄り添って静かにその時を待った。
滝夜叉丸は俺の腕の中で二回血を吐いた。その度にもっと強く抱いてくれと言う。離れる時が着々と近づく。
俺は滝夜叉丸の目も、眉毛も、鼻も口も耳も手も足も、髪の毛の一本でさえも記憶から取りこぼしたくなくて、見つめ、触れて、キスをした。
彼の名前を呼びながら。

どれくらいそうしていただろう。あたりはすっかり夕闇に染まっていた。風が木々を揺らす音だけが遠くに聞こえる。
ふわり、滝夜叉丸が目を開けた。
口元が微かに動く。
「さんの、すけ、」
ほとんど聞こえない声で、彼が囁く。
「わらって」
ああ、最期だと思った。そんな時まで笑えというのか。
「あんたはほんと、こんな時まで我がままだ」
でも、愛しい人が笑うと幸せな気持ちになれる、そう思ったのはいつだったっけ?
これが最期ならば。

うまく笑えてたどうかは解らない。
もうあまり見えていないんだろう。彼の手を握って、俺も顔に触らせる。涙を流すことだけは許して欲しい。
「好きだ、ずっと愛してる」
耳元で囁く。
滝夜叉丸の目からほろりと涙が溢れた。
にこりと笑って、目を閉じる。
そして、
「滝夜叉丸?」
もうぴくりとも動かなかった。

彼は逝ったのだ。

俺は彼の亡がらを腕に、泣き叫んだ。
悲しくてたまらなかった。もう触れ合えない、抱き合えない、彼の髪が靡くのを見ることもない、そして彼の笑顔も、もう。
悲しい、悲しい、悲しい。
俺はその晩中泣き続けた。
彼を思って泣き続けた。

平滝夜叉丸はこうして死んだ。

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