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07 . October
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11 . November
なんで、笑える?





>side 食満留三郎


握った手は自分に比べれば小さな手だ。
可愛い後輩だった。
学園に入学した頃を覚えている。人見知りのある思い込みの激しいこども。
ころころ変わる表情が面白くていつも気にかけていた。
あいつが三年になった頃、委員会に新しく一年が入った。その時のあいつのはしゃぎようったら。末っ子が兄貴ぶってるような様子に笑顔が零れた。
そして俺が学園を卒業する時に見せた泣き顔。不意に抱きしめたい衝動に駆られた。
それが親愛なのか、恋愛なのかは当時の俺にはわからなかったけれども。
手放し難かったのは、確かで。

可愛い、愛しいこども。
けれど、その命を奪ったのは他でもない俺だ。

「俺がお前を殺したんだ。」
ばたんっ!大きな音がして唐突にドアが開いた。
同時に飛んでくる拳。
咄嗟にとった受け身は昔の癖みたいなものだった。空いている片手で握った拳は次屋のものだ。
「今の話、どういうことですか?」
地を這うような声。聞かれたのか。妙に冷静にそう思った。
「三之助!おま…」
「聞いての通り、あの時代の作兵衛を殺したのは俺だってことだ。」
「先輩!」
作兵衛の叫び声とともに二発目が飛んでくる。
握っていた作兵衛の手を離して、それも受け止めた。
「やめろ、三之助!違うってば!」
作兵衛の叫び声が響く。
殴られるべきなんだろう。この拳には。
だけど、こうも思えるということが、それが表に出せるということが、少しだけ妬ましかった。
「あんたなら信頼出来ると思って話したのに…!」
血を吐くような次屋の台詞。また俺は裏切るのか。
「……悪い。」
「…っ…認めんなよ!」
三発目は受けようと思った。酷く自虐的な気分だ。
迫る拳を落ち着いた気持ちで眺める。
「すとおおっっぷ!!」
突如響く大声とともに、目の前の次屋がいなくなった。いや、床に倒れたのだ。その上に乗っかっていたのは神崎だった。うつ伏せになった次屋の背中に足をついて、神崎が叫ぶ。
「なんかっよく解らんけどっ!!!」
戸惑う俺らを余所に、びしりっと人差し指を突き付けた。
「病室でケンカ!良くないっ!」
さすがに唖然とする。
「…っっ左門!?なにすんだてめぇ!」
「それはこっちの台詞だ三之助!作兵衛を見舞って下さった先輩に失礼だと思わんのか!」
「…っ」
一言で次屋を黙らせると、神崎はこちらを向いた。
「先輩、」
真っすぐにこちらを見据えられて、少したじろぐ。神崎は記憶を持っていないと聞いたのだが、この見透かすような目はなんだろう。
「三之助が失礼しました。今後はこのような事はないようにしますので、お許し下さい。」
「…いや、次屋は悪くない。」
「そうですか。ありがとうございます。」
じいっと見てくるその目が、暗に出ていけと言っているようだった。記憶はない、はずなんだが。神崎も本能的な部分で気付いて、作兵衛を守ろうとしているんだろう。その素直さが、やはり少し羨ましい。
「こっちが悪かったんだ。もう出ていくから、安心してくれ。」
「先輩っ!」
「作兵衛、ごめん。」
何に対しての謝罪なのか。自分でもよく判らなかった。謝るべきことは沢山あるけど。
「先輩待ってください!」
振り切るように、ドアを閉めた。
振り返れるはずがなかった。


あの頃、あの時代。いくつの城が潰れたろう。いくつの命が途絶えたろう。
俺らが仕えた城も、落城の危機にあった。近隣の領地で仄かに香る火薬の臭い。戦の始まりがそこかしこに漂う。早急に手を打たねば。緊急に会合が開かれたのは桜も満開の春の終わり。
忍衆の長が出したのは潜入による陽動作戦だった。
まだ時間のある内に内部に入り込み、じわりじわりと崩壊へ導く。それは有効に思えた。
「時期をずらして複数人を送り込む。どう奴らに信用させるかが問題だ。」
「一人、贄を作るということか。敵方の前で殺す。」
「心痛むがそうすべきだろう。」
「忠義のためだ。解ってくれる。」
「選出が大事だ。誰でも良いというわけではない。相手方に知られているほどの手練でなくては意味がない。しかし我々の戦力が減るのもまた好むことではない。」
「腕の立つ若者か。ますます心痛むな。」
「仕方がない。御家を絶やすわけにはいかぬ。」
「左様。忠義の為だ。」

忠義の。

選出は忍衆の上役全員による無記名の投票で行われた。

〝富松作兵衛〟

出た名前を予想しなかったわけではない。
なるほど、条件を見れば作兵衛程に当て嵌まる人物はそういないかった。
だけど。
だからといって。
「待ってください!富松はまだ若い!まだ伸びる!富松を行かせるぐらいなら俺を行かせて下さい!」
「食満、お前の気持ちも解る。後進だそうだな。だがお前は部下もいる忍衆最年少の隊長。お前を失うのは我が城にとっては痛手だ。いや、富松を失うのだって痛手には違いない。しかし、だ。」
「城の存続の為だ。解ってくれるな。」
解らない。解りたくない。
「しかし…!」
なおも言いつのる俺に、すう、と長の目が細まった。広がる殺気。ぞわりと鳥肌が立つ。
「どうも解っていない様だな。これは命令だ。」
圧倒的な存在感に気圧される。動けなくなった俺に、長年この城に仕えて来た忍衆の長が言い放った。
「この度の囮役の任務、忍衆五番隊所属、富松作兵衛に任命する。本人への伝達はお前の裁量に任せよう。五番隊隊長、食満留三郎。」
目の前が真っ暗になる思いだった。
俺の口から作兵衛に死ねと命じろというのか。


そして、桜の下。
突然の告白。
涙。

このまま連れて逃げてしまおうか。

葛藤。

頭を過ったのは、作兵衛の言葉だった。

「俺が戦うことで、人を殺すことで、この領地の平和が守れるのなら。」

作兵衛。
俺は、どうすればいい?
抱きしめたかった。涙を拭いたかった。
けど、ここで逃げたとして、作兵衛の守りたかったものはどうなる。守れたはずの命が絶たれていくのを見る作兵衛はどう思う。

桜が散る。

可愛い、愛しいこども。優しい俺の後輩。
懐いてくる様子が嬉しかった。二人で出かけるのは楽しかった。
この後輩を幸せにしたいと思っていた。
ずっと、…好きだったんだ。
今更になってこの気持ちに気付くなんて、俺は本当に馬鹿野郎だ。
「……作兵衛。」
「はい。」
涙で濡れた目が俺を見る。
俺の返事なんか、たった一つ。俺も好きだ。お前を幸せにしたいと思ってる。
でもそれを伝えたところで何かが変わるのだろうか。
お前の命が奪われるこの瞬間に、手を取って逃げる事も出来ないような男だ。
結局、俺の口から出たのはこんな言葉だった。

「五番隊隊長として、お前に命じる事がある。」

俺は本当に愚かだ。



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