入学したてで希望に胸膨らませる俺を滝夜叉丸と引き合わせたのは、かの暴君、七松小平太先輩だった。
当時まだ紫色の服を着ていた七松先輩は四年生ながらすでに暴君の片鱗を見せていて、なにも知らない幼気な子どもだった俺を見てにかっと笑ってこう言った。
「お前、体育委員な!」
選抜理由は
「目が合ったから」
それだけ。
なんとも理不尽な理由で俺は体育委員へ引きずり込まれることとなる。
そのまま拉致られた俺は、何がそんなに楽しいんだかにこやかな暴君に体育委員の面々と引き合わされ、そして最後に青色の制服の少年と向かい合わされた。
えらい整った顔、今まで田舎の農村で育って来た俺には縁のない家の出なんだろうと一目でわかった。そんでもって、俺は「そういう高貴な家の出を鼻にかけた奴ら」が大嫌いだったもんだから、第一印象は悪かったと言っていい。
「滝!新入生を連れて来たぞ!お前の初めての後輩だ。面倒みてやれよ!」
まだ委員会が決定したわけでもなかったが、彼の中ではもう決定事項だったらしい。長いまつげが瞬いて俺を見る。羽ばたく蝶々を思い出した。
「名前は?」
「次屋、三之助」
「そうか、私は平滝夜叉丸だ」
ふわりと笑った顔が思いの外優しく美しくどきりとした、のは一瞬だった。
「まあ私のもとに来たというのならば安心するといい。私は学年こそまだ二年だが秘めたる才能たるやいずれ学園一と呼ばれるに相応しい人材だ。まだお前には理解出来ないだろうが後々わかることだろう。そう嫉妬するな。顔もよし、そして才能もよしとあればそれはもう羨ましいと思うとは思うが人にはそれぞれ生まれもった才能が……」
ぐだぐだぐだ、話が続く。
はあとか、へえとか、口を挟む隙間もない自画自賛。
表情が顔に表れにくいと常々言われてる俺だが、この時はさすがにうんざりが顔に出ていたと思う。隣に立つ七松先輩がこそりと言った。
「びっくりしたか?」
「はい…」
「面白い奴だろう?」
極めて好意的な発言に、思わず先輩の顔を見た。本気で思っているらしい。
とんでもないところに来てしまった。
忍術学園生活中、俺がこう思ったのは2回。
そのうちの1回は入学してたった6日目のことだった。
[9回]
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