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25 . November
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21 . August
重要なのは、生まれてきた理由じゃなくて、
今ここで生きてる俺が過去を持って生まれてきた、その意味。


出会ってから数えて3回目の春に、俺と作兵衛と左門の三人は小学校を卒業した。入学した中学は中高一貫の私立中学。
名前こそ違えど、学校の建つその場所は何百年も昔に忍術学園が在った場所だった。極めつけは理事長の存在。案内パンフレットを見た俺が思わず笑っちゃうぐらい、同じ着物で同じ笑みで、あの老人はそこに居た。
十の頃に再び手にしたあの頃の記憶は、今だ繰り返し俺を苛まさせている。
記憶を共有できる誰かがいたら、なんて思っていて。でもいたところで、俺のこの記憶が消えるわけではないことはわかっていた。
誰かに話したところで、そう変わらない。だってこれは俺自身の業で、罪だ。
でも、もし、いるならば。俺はその人を前にどうするんだろう。どうなるんだろう。
何を望んでいるのか、自分でもよく解らないままに俺は進学先を決めた。

進学先が左門や作兵衛の二人と被ったのは偶然。でも少しだけ、同じならば良いと思って、ここを二人に紹介したのは俺だ。
またこの地で二人と学べることを、心の底から嬉しいと思った。

入学式の日。登校した校舎はあたりまえだけど「あの頃」の面影のかけらもなく、俺はちょっと落胆した。
ただ、学校の周りだけは相変わらずのド田舎で野山に囲まれていて、教室から見える風景の懐かしさに目を細める。
もしかしたら、体育委員会で走り回ったあの場所も残っているかもしれない。あの頃のような体力は(あたりまえだけど)なく、あんな動きが出来ない俺には行くのは難しいだろうけど、これから6年ある学園生活だ。どこかで行ってみるのも面白いだろう。
これからの楽しみを思って、俺は笑った。
ああ、そうだ。確か竹谷先輩から教えてもらったあの釣り場は、ちょっと遊びに行くには良い場所だった。

 ——……れい、だな。

ふと、思い出したあの場所に被って、何かがよぎった。

 ……から、お前は…、——の様には……か、

ぐらりと目眩がした。チューニングが合わないラジオのように、途切れ途切れな記憶。

 …—…だ…らな、

   さんのすけ。


だれ?


「三之助!おい、大丈夫か?」
「…っ」
突如、肩を揺すられて我に返る。
机に座る俺を覗き込んでいるのは作兵衛だった。
「なんだ、気分でも悪いのか?」
「…いや、大丈夫」
「…なら良いけど」
少しだけ納得がいかない顔で作兵衛が言う。
「これから講堂で式だってよ」
確かに見渡すと周りの人間はぞろぞろと移動を開始していた。
「早くしないと置いていくぞ!」
ドアの脇で左門が声を上げる。途端にダッシュで作兵衛が走った。記憶がないせいか左門の方向音痴は見事に復活を遂げているのだ。
そんな二人を見て思わず笑った。強張った体から力が抜ける。
「おい、置いて行くなよ!」
二人を追って席を立った。

廊下を歩きながら、さっきの白昼夢を思い出していた。
まだ思い出していない記憶があるんだ。ざわざわして落ち着かない。
俺はまだ何かを忘れていて、それが怖く、恐ろしい。

  さんのすけ

あの声の主を俺は知らない。
俺は誰かを忘れているんだ。

泣きたくなるほど懐かしいあの声の主を。


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